低投資、ミドルリターンのビジネスモデルとしてのPCR検査事業
日本の新型コロナ感染者数(累計)は、2021年4月末の時点で59万人を超しました。
東京都は人口比で約1%、全国平均では0.4%の人が罹患していて、身近な職場で感染者が出ることを想定した対策の必要性が高まってきています。
そこでは、今までにはなかった様々な新ビジネスも浮上してきて注目されています。
まずは、世界のコロナ感染率を比較してみてみましょう!
各国人口に対する新型コロナ感染率(2021年4月末)
- 米国………………3219.2万人(人口比 9.8%)
- フランス………… 550.3万人(人口比 8.5%)
- ブラジル…………1436.9万人(人口比 6.7%)
- イタリア………… 397.1万人(人口比 6.5%)
- 英国……………… 440.6万人(人口比 6.5%)
- アルゼンチン…… 287.9万人(人口比 6.3%)
- トルコ…………… 466.7万人(人口比 5.5%)
- ドイツ…………… 330.3万人(人口比 3.9%)
- ロシア…………… 477.1万人(人口比 3.2%)
- カナダ…………… 118.7万人(人口比 3.1%)
- 日本……………… 57.2万人(人口比 0.4%)
- 韓国……………… 11.9万人(人口比 0.2%)
- オーストラリア… 2.9万人(人口比 0.1%)
○世界平均……人口比 1.18%
企業は、職場内での感染予防として、毎日の検温やパーティーションの設置など様々な対策がされていますが、感染者が出てしまった時の行動として行政が指針を定めているのは「濃厚接触者の検査」と「施設内の消毒作業」であり、その両方で民間サービスの需要が高まっているのです。
PCR検査の方法には、費用負担の違いによって「行政負担により無料」「保険適用による3割~1割負担」「自費検査による全額負担」という3種類があります。濃厚接触者の条件に該当するか、保健所や病院で「検査が必要」と判断された場合には、検査費用の全額または一部が公費負担となりますが、それ以外でも、自主的に検査を受けたいというケースでは、自費検査として、本人または会社が費用を全額負担することで受検できます。
検査費用は、受診する医療機関によっても異なりますが、1人あたり18,000~40,000円(税別)が実勢相場になっています。
PCR検査の費用負担例
- 行政検査(感染の疑いが強い、濃厚接触者と保健所が判断した場合)
・検査費用……行政負担のため無料 - 保険適用検査(医師の判断で検査をする場合)
・検査費用……診療報酬1,800点(18,000円)の3割~1割負担 - 自費検査(本人または会社が検査を希望する場合)
・検査費用……検査機関が設定した自由価格
政府や自治体が発表している毎日のPCR検査数は、行政検査と保険検査を集計したもので、自費検査までは含まれていません。
しかし、ワクチン接種が進んだ後には、自費検査の需要が伸びていくことが予想されます。
拡大する自費PCR検査の業界構造
企業が社員に対して保険適用外のPCR検査を実施する主な理由は、海外出張をする際に必要な「陰性証明書」を取得する目的があります。
世界で大多数の国は、パンデミック後に外国人の入国を制限してきましたが、ワクチン普及後は、渡航の数日前に発行された陰性証明書を携行することを条件に入国規制を緩和してきていますが、米国、中国、英国、韓国などでは、日本人の渡航者に対して、フライト出発前3日以内に取得した陰性証明書の提示を条件に、入国を許可するようになってきています。
そのため、どうしても欠かせないビジネス出張者が増え始める時期とリンクして、法人向け自費PCR検査の需要は伸びていくことが予測されることが、ビジネスチャンスとして注目を集めているのです。
PCR検査の方法は鼻孔や鼻咽頭の粘膜から検体を採取する方法の他に、唾液から採取する方法も開発されているため、検査自体は手軽に行えるようになってきています。
料金は、検査機関によって3000円~4万円までの差がありますが、これは使用する分析機器と検査方法の違いが関係しています。
保険適用の医療機関で行われるPCR検査は、採取した検体を国際規格に則った検査機関に送付して結果が判定されるため、検査精度は高いが、判定に数日かかることと、検査料金が高い(2~4万円)ことが欠点です。
一方、安価な検査は、自社でリーズナブルな検査機器を購入して行う方式のため、当日数時間以内の検査判定が可能で、料金も大幅に下げることができます。
この自費検査市場には、美容クリニックが多数参入してきています。
島津製作所(7701)が、2020年11月に発売した「遺伝子解析装置 AutoAmp」は、中小のクリニック向けに開発されたPCR検査装置で、価格は190万円。
検査に必要な診断用試薬キットが、100検査分で22万5000円となって1検査あたりの原価コストは2250円+検査装置の償却費となり、検査料金を1万円台に設定しても採算が合う計算になります。
さらに、料金の安さを追求するのであれば、検査キットを自宅に郵送する在宅型のPCR検査もあります。
この方式では、ネット専業のPCR検査業者も参入してきていて、申込者から返送された検体を半日程度で検査して、結果をメールで通知する仕組みで、検査料金は3000円~と安いのが特徴です。
法人顧客に対しては、キットのまとめ買いをすることで、さらに割引価格を提示している業者も増えてきました。
在宅PCR検査の流れ
しかしながら、厚生労働省は格安検査サービスの検査精度は低いとして利用者に対して注意喚起を行っているのが現状です。
その点から、信頼性が担保されたPCR検査の最低料金は、約1万円~というのが現在の相場水準と考えられます。
さらに、陰性証明書を希望する被検査者に対しては、医師が対面またはオンラインで診療する必要があり、PCR検査を実施して陰性判定が出ると、検査料金に証明書の発行手数料(5千円~1万円)が加算される料金体系になっています。
検査の方法(鼻咽頭ぬぐい式、唾液式)や陰性証明書の仕様は、渡航する国によっても規定の違いがあり、料金の詳細もそれによって変わってきます。
2020年11月の時点で、ビジネス渡航用の証明書発行に対応したPCR検査を行う民間機関は全国で、なんと・・・429団体となっています!
それよりも簡便な検査を行う団体も含めると、新型コロナウイルスの検査ビジネスは急速に拡大していることが分かります。
経済産業省では、海外渡航で陰性証明を義務付ける国が増えていることに対応して、「出国者PCRセンター」の整備を進めています。
一例として、日本医科大学が成田国際空港内に、2020年11月から開設しているPCRセンターは、検査受付→検体採取→検査→証明書発行までを、最短2時間で行うことができます。
検査は、空港のセンター内に設置された全自動遺伝子解析装置「GENECUBE」で行われ、料金は証明書発行料込みで30,000円です。
「GENECUBE(ジーンキューブ)」とは、東洋紡(3101)が開発した国産の遺伝子解析装置(1600万円)で、同時に8人までの検体を30~45分で分析することができるのが特徴です。
東洋紡では、同モデルを小型化かつ高性能化した「GENECUBEモデルC」を2021年3月から発売しており、価格は従来機の1/3(560万円)だが、最大12検体までを同時に分析することができる仕様になっています。
新型コロナの感染が広がる前、2019年の時点で日本人の出国者数は2000万人、その中の2割がビジネス渡航者(約400万人)と言われ、ワクチン接種後にどこまで海外渡航者が戻るかは不明ですが、すべての渡航者が出国の1~3日前に陰性証明を取得する必要が生じると、空港内に設置するPCRセンターだけではキャパオーバーとなってしまうため、経産省では、民間業者を公募する形で、オンライン検査を含めた出国者PCRセンターの整備を急いでいるのが現状です。
一見ブルーオーシャンに見えるPCR検査市場ですが、この状態が続けば異業種からの参入が増加して恐らく「先行逃げ切り」できる企業だけが生き残るレッドオーシャンになるでしょう。
しかしながら、コロナ対応も色々変化していきますので市場をしっかりと見ていくことで、ビジネスチャンスが発見できるかもしれません。
(参照:JNEWS.COM)