営業日報は営業日記ではない
中小企業にとってのマーケティングは営業にある
毎日、中小企業の社長とお会いさせていただく仕事をしていると、たまに想像もつかないびっくりする現実に直面することがあります。
その中の1つに、結構規模の大きな中小企業にも、営業資料が存在しない場合が多いということがあります。
何をもって営業資料を指すかというと、単に毎月の取引先の売上げの記録を取ったものを指すわけではなく、顧客別販売情報のことを言います。
どこにでもあるのが「月別取引先売上表」というもので、毎月の売上げを取引先ごとに一覧表にしたものです。
ほとんどの中小企業の場合は、この「月別取引先売上表」を営業資料と表現しているようですが、実際の営業資料とはお客様の購買頻度や金額、購入商品などがわかるようになっているものです。
なぜそういった営業資料が必要かと言いますと、営業という仕事は中小企業にとってはマーケティング調査室の役割も担っているからなのです。
よく大企業などでマーケティング調査室などというかっこいい部署がありますが、日本の99%以上を占める従業員100名以下の企業で、マーケティング調査だけをすることで、給与の支払いができる部署など抱えられるわけがありません。
そうなると、中小企業にとって自分たちが売っている、もしくは売ろうとしている商品と市場の係わりを探り、お客様に選んでもらえるためのお客様のフィードバックを社内に持ち込む役目は、実際にフィールドワークをしてお客様に接触をしている営業のみということになります。
だから中小企業では営業担当者の大切な役割としてマーケティング調査の機能を持つ必要があるのです。
営業に求められるマーケティングスキル ―観察と測定―
このマーケティング調査室の機能をもった営業担当者に求められるスキルが2つあります。
1つは観察、そしてもう1つが測定です。
観察というのは、物事の状態や変化を客観的に注意深くみることを指しており、測定は様々な対象を一定の基準をもってその大きさを数値化することと定義づけされます。
これをもう少し専門的に言うと、観察は定性分析つまり数値化できない分析で、測定は定量分析で数値化される分析です。
営業担当者は日々の業務の中でこの観察(定性分析)と測定(定量分析)を通して自社の商品やサービスについてのマーケティング室の機能を持ち合わせる必要があります。
この能力が無い営業担当者は、単にお客様から言われた要求に対してリアクション芸人ならぬ、リアクション営業マン(ウーマン)となります。
リアクション営業の人はあくまでもリアクションですから、お客様からのアクション、つまり振りがなければリアクションがとれないので、受動的な営業スタイルは特徴になります。
お客様からのアクションがなければリアクションの営業ができないので、お客様からの要望が無いと成果が出づらいのです。
こういったリアクション営業マン(ウーマン)にならないためには、観察と測定能力が重要になってくるのです。そして、この観察と測定を会社に報告する書類が営業日報でなければいけないわけです。
よく中小企業で営業の使っている日報などを拝見することがあるのですが、この観察と測定の懸念の入っていない日報などは、マーケティング調査室の有効な資料になりえません。
どちらかといえば営業担当者の「日記」みたいになっている場合がほとんどです。単に営業日記に過ぎないのです。
通常の営業日報にも観察と測定が盛り込まれていなければなりません。
営業の人でこの営業日報を書くのが辛いという人が多いのではないでしょうか。
これは意外とメルマガやブログを書くのと似たようなところがあって、書いていて書きたくなくなる日報には共通点がいくつかあります。
- 毎日書くのが辛い日報とは、まず作文形式になっているもの。
- 定性分析と定量分析の概念がないこと。
- 必要情報のフォーマットがないこと。
などです。
よく続くメルマガやブログを書いている達人に秘訣をお伺いすると、必ず返ってくる答えに文章にフォーマットがある、つまりフレームが出来ているということを言われます。
つまり毎回創作して文章を書いているというよりも、決まったフォーマットによって、それを埋める作業をしているということなのです。
営業日報にメルマガやブログのフォーマット要素を取り入れると、営業担当者の書く日報の内容が格段に情報として読みやすく利用価値が出てきます。
10代の頃に異性を見たように分析しよう
定性分析に必要な「感覚」「客観的」「行動力」
まずは観察である定性分析から説明しましょう。これは「マーケットを観察する」ということです。
もう少し詳しく説明いたしましょう。
観察である定性分析に必要な要素は次の3つです。
- 感度
- 客観性
- 行動力
1つ目の感度は、実際にモノの動く現場にいる営業担当者はお客様や市場の変化に対する感度が良くなければなりません。
営業で出入りしているお客様の、ちょっとした変化や先方の会社で聞こえた従業員さん同士の会話、他の業者さんから耳に入ってきた情報など、ちょっとした現場の変化を見過ごさない鋭敏な態度や要求されます。
よく見かける光景で、部下や取引先の変化に気が付いて上司に報告すると「そんなことはないでしょう~」とか、「気のせいじゃない、そんなことありえないよ」などと変化の機微を実際に営業のフィールドで感じていない上司が握りつぶしてしまうことです。
2つ目は客観性です。
感度良く鋭敏に捉えた取引先での情報を客観的に考えることが必要です。
よくある話で、これは年配の上司の方に多いのですが、自分が消費者やお客様の代弁者となってしまって「私ならそんなサービス必要ないな」とか「私はそういうの好きじゃないな」とか「自分の好みに合ってないな」など、仕入れてきた情報を客観性のない判断で曇らせてしまう行為です。
これをやっていると、せっかく感度良く仕入れた情報も、客観性を持たないために情報を生かしきれない状態に追い込んでしまいます。
3つ目は行動力です。
筆者は商社マン時代に、感度良く拾ってきた情報を、本人は客観性をもって上司に報告した気になっていると、課長から「この情報の裏をとったのか?」などとよく怒られました。
どんな良い情報もリソースが1ヵ所だと信憑性に欠けます。
仕入れた情報を確認する意味でセカンダリソースとしての情報収集が必要になります。行動力とは、こういった情報を自分の好奇心やフットワークでしっかりと裏付けを得るために活動できるだけの行動力を指します。
この3つの条件を満たしたときに、営業の担当者は観察という名の定性分析を自分の武器にすることができて、単なる営業担当者からマーケティング調査室に変身することができるようになります。
定量分析に必要な営業資料
次に定量分析とは数字で表現できるものです。
これは、たとえば営業資料でいえば、CPO(コスト・パー・オーバー)といって、新しいお客様を1人、もしくは1社生み出すのに必要なコストだったり、客単価(お客様の1回あたりの購買金額)とか、お客様の年間の購買回数だったりするわけです。
つまりお客様が、どんなタイミングで、いくらくらいの金額で、どんな商品を、どれくらいの頻度で、あなたの会社から購入しているのかというようなデータです。
皆さんの会社ではこういうデータを持っていますか?
CPO(コスト・パー・オーダー)
- 新規顧客を獲得するコスト
- 新規顧客1社(名)を作るために投資した金額
客単価
売上高(年間/月間)÷購買回数
客単価は1回あたりの購買金額
=潜在顧客の財布の中身
=商品の魅力度
LTV(顧客生涯価値)
売上(年商/月商)÷顧客の絶対数
※顧客の絶対数・・・1年に1回でも購入した顧客数
1人の顧客が1年間に購入した金額
顧客回転数
LTV÷客単価
顧客回転数は年間購買数
=会社・社員の魅力度を表す
=売上に直結する数値
(売り上げるヒントをくれる数値)
RFM分析
- リーセンシー ・・・履歴
- フリークエンシー・・・回数
- マネタリー・・・金額
※RFMは色々な角度から、顧客の未充足ニーズや購買パターンを観察する
全国で講演をさせていただいて、参加している経営者に「皆さんの会社の平均客単価はいくらですか?」と問いかけますと、ほとんどの人が応えられません。
100人参加者がいると、せいぜい自分の会社の客単価を知っているのは2~3人くらいです。
客単価という言葉自体を知らない人も意外に多くて、今さらながらにびっくりさせられることも少なくありません。
まさに、月別取引先売上表だけが営業資料だと信じている中小企業の社長がいかに多いことかということです。
こういったお客様の購買行動やパターンがわかる営業資料を作っていないと戦略もへったくれもありません。
なぜなら、何か手を打つための検討材料がない状態になってしまうからです。
このお客様にはこういった商品を紹介してみようとか、この商品を買った人にはこの商品をこのタイミングで勧めようとか、その様な売り方戦略のアイデアが出てこないからです。
基本的に「商品」(何を)、「地域」(どこで)、「客層」(誰に)の整合性が取れて、営業(どうやって売るのか)の仕方を仮説に基づいて考えていくわけですが、それを考えるにしてもお客様の購買データといわれる営業資料がなければ、なかなかアイデアは出てきません。
アイデアがわかないのは、適切な情報のインプットが無い場合がほとんどです。
そういった資料も持たないで「売上げがたくさん上がる営業方法を教えてください」と誰かに聞いたところで、まるで預言者のように「この商品を北の方角のお客様にすすめなさい」としか、言いようがありません。
自分の会社の商品を買ってもらっているお客様のことを、もっともっと知る必要があります。
お客様に興味を持ってどんな人達がこの商品を買ってくれているのだろうかとか、その人達は他にどんな商品を教えてあげればもっと喜んでくれるのだろうかと考えるためにも、この測定と言われる定量分析を是非とも始めてください。