ビジネスモデルをつくり上げるには、一定の段取りがあります。
まず今現在、自社がどのようなモデルになっているのかを把握するのが第一歩です。
そのためには、損益計算書などとしっかりと分析する必要があります。
そして「何を」「どこで」「誰に」「どのように」売るかについて、実現可能な仮説と目標を設定します。これが「経営計画」です。
実効性のある経営計画を立てるために欠かせないのが営業機能の強化と営業データベースの整備です。顧客のニーズや動向を的確に把握(つまり、マーケティングですね)できなければ、まともな経営計画などつくることはできないからです。
そして、PDCAサイクル(Plan Do Check Action)を回していきます。
経営計画に基づいて全社一丸となって活動し、随時、達成状況をチェックして、必要であれば修正を加えていくのです。
成熟市場においてのよい経営とは、「正解主義」ではなく「修正主義」であるべきなのです。
ところが、これを実践できる中小企業が極めて少ないのが現状です。
もちろん、社長さんが、長年“下請けモデル”でやってきたために、やり方がわからないという理由もあります。
しかし、私が見過ごせないのが税理士の存在です。
多くの中小企業の社長さんにとって、もっとも「身近な先生(専門家)」は税理士です。そのため、経営についても税理士に相談してしまうのです。
ところが、税理士は「経営のプロ」ではなく「税金のプロ」です。
まぁ、現在日本の企業の70%以上が赤字ですから、そもそもどんな「税金」の指導が求められているのか、という疑問もあるのですが、それを横に置いても、「税金のプロ」である税理士は、誤った指導をしてしまうことが実に多い。
たとえば、経営計画書。
これは会社を取り巻くさまざまな状況を織り込みつつ、毎年ゼロベースでつくりあげなければならないのですが、
「商品Aの売上額 対 前年比〇%アップ!」
「売上、利益目標額 〇〇円!」
などという形で作成してしまいます。
その〇%、〇〇円には何の根拠もありません。会社を維持するために必要な利益額から、逆算してはじき出しているのです。
しかし、それはお客様の状況や市場ニーズとはなんの関係もない数字ですから、まず達成されることはありません。
その結果「経営計画書なんて作っても意味がない」などということになってしまうのです。
あるいは、税理士の指導によって必要な経費を削ってしまうこともあります。
その代表が「営業経費」です。
“脱”下請けのためには、新しい顧客を開拓することが不可欠です。もちろん、営業を強化したからといって、すぐに結果がでるわけではありません。
しかし、これは「投資」です。
どんなに良いアイデアでも投資をしなければ、絶対に利益を得るビジネスモデルを構築することはできないのです。
ところが、税理士はそのことを理解していないために、「売上げが下がっているので、営業経費率が上がっています。利益を出すためには、営業経費を削ったほうがいいですね」などと指導してしまいます。
その結果、営業投資が減って、経営がさらに追い詰められてしまうのです。
このように、税理士の“トンデモ経営指導”を真に受けてしまうと、ウソではなく会社が潰れてしまいかねません。
もちろん、「税金のプロ」としての税理士の指導は貴重なものです。
しかし「先生」の経営分析中心の経営指導では、過去の業績の理由を検討することはできても、「これからどうしたら儲かるか」のヒントはわからないのです。
焦りだした「先生」たち
税理士はあくまで「税金を納付するプロ」です。
決して経営のプロではありませんし、営業のプロでもありません。
このように申し上げると、税理士の方から「私も税理士事務所を経営する経営者だ」「営業活動だってしている」といった批判を受けます。
しかし、「税理士」という国家資格をもつ士業の世界での経営や営業は、一般企業のそれとは根本から異なります。
日本では士業の先生たちが「横並び」で食べていけた時代が長く続きました。
顧問先企業は親から子、先輩から後輩に譲るもの。いわば“縄張り”でした。
むしろ、若くやる気のある先生が営業努力をして新たに顧問先を開拓しようものなら、「お客を取るな」と業界内でクレームがつくような世界だったのです。
そのような世界で生きてきた先生が、専門外の経営指導などを行って結果を出すことができるでしょうか?
たしかに、経営や営業についても深く理解されている税理士がいらっしゃるのは事実です。しかし、ほんの一握りです。
大半の税理士は、経営戦略に関する本やセミナーでかじった受け売りの知識を述べているのすぎないのです。
本当に優秀な税理士に共通していることが一つあります。
それは、自分の専門分野以外のアドバイスは、しないということです。
もちろん、相談されれば自分の意見は言うべきなのでしょうが、必ず「私の専門ではありませんので間違っているかもしれませんが」などと前置きをしたうえで、お話をされています。
特に、経営に関する相談に関しては、いい加減なことを絶対に言いません。
ところが、ゆゆしきことに、専門外のサービスに手を出す税理士が確実に増えています。
それには背景があります。税理士業界が過当競争になりつつあるのです。
ご存知のとおり、近年、企業の倒産件数が高水準で推移している一方、創業件数は低水準のままです。
つまり、税理士の顧客はどんどん減っているのです。
ところが逆に、税理士の数は増え続けています。
1975年頃の税理士の登録者届出数は約3万人だったのですが、2010年7月末時点では倍以上の7万517人にまで増加。
しかも、近年大量のクライアントを抱える税理士法人も生まれてきているため、税理士業界において“勝ち組”“負け組”の二極化が進んでいるのです。
クライアント数が減ってきた先生は焦っています。しかも、報酬規定が撤廃されたために、仕事のない先生は報酬を切らざるをえません。
まさに、ジリ貧の状態にある先生も少なくないのです。
さらに、会計ソフトの普及も追い打ちをかけます。
かつて、税理士は面倒な記帳を代行するサービスで安定的な報酬を確保していました。しかし、優れた会計ソフトがその仕事をどんどん奪っているのです。
なかには、会計ソフトの使い方を教えることに軸足を移した税理士もいるほどです。
このように、いま税理士業界は「過当競争」と「会計ソフトの普及」という二重苦にさいなまれているのです。
そこで、彼らが血眼になっているのが「差別化」です。
「ほかの税理士よりもプラスアルファの仕事をしますよ」という触れ込みで、顧客や報酬を増やそうとしているのです。
その際、自分の専門分野において差別化を図るのが王道でしょう。
「資産税について、他の税理士よりも詳しいプロ中のプロ」といった具合です。
しかし、そのような努力をせず、安易に専門分野以外に手を出そうとする先生がいます。
たとえば「差別化」と称して各種保険商品を取り扱っている先生です。
誤解を恐れずにいえば、保険について税理士が相談に乗ること自体はたいへん有意義なことです。
節税効果を期待して保険に入る会社もあるので、複雑な保険商品について税理士の専門的なアドバイスを受けたいというニーズは確実に存在するからです。
しかし、なかには自ら保険代理店になっている税理士事務所も少なくありません。
その場合、当然自分が扱っている保険商品を勧めることになります。これでは、客観的なアドバイスなど期待できません。
税理士が直接、保険商品を扱うことは間違っているといわざるをえないのです。
さらに問題だと思うのが、生半可な知識しかないにもかかわらず、「経営アドバイザー」を名乗り「儲けの増やし方」をアドバイスする先生方です。
顧問料とは別料金で、SWOT分析をやってみたり、経営理念づくりをやってみたり、目標設定のはっきりしない経営計画書を作ってみたり・・・。
なかには、「へえー、税理士の方でここまでお客様の作り方をわかっている先生もいるんだ」と、感心させられることもあるにはあります。
しかし、実際のところ、目標設定が曖昧であるために何の意味もないか、逆に、経営で一番大切な「お客様つくり」に悪影響を与えるケースが大半なのです。
このような、顧客である経営者のためではなく、自分の利益のための「差別化」は、いい加減やめていただきたいものです。
岐阜県美濃加茂市に小原泰史先生という税理士がいらっしゃいます。
地元で尊敬されている人格者で、書院数名ながら堅実な事務所運営をされている先生です。
小原先生は、こうおっしゃっていました。
「私も保険の相談には積極的に乗りますよ。でも、絶対に販売には手を出さない。保険を売ることで客観性が失われますし、本業以外の収入をクライアントから得ることは、クライアントの信頼を失うことだからです」
先生が貫いているのは、「クライアントからの信頼を失うようなことはしない」という強い信念です。
だからこそ、多くの経営者に信頼されているのです。
本当の差別化とは、こういうことを言うのではないでしょうか?
社長さん、気をつけてください。
「税金のプロ」として税理士と密接に付き合うのは大事なことです。
しかし、くれぐれも「お客様づくりのプロ」「経営のプロ」だと勘違いしないようにしてください。