全社一丸となる条件

元松下電器グループで、1部上場企業の福岡製紙と言う会社がある。
この会社は、段ボールを中心とする包装資材を製造している。

第一次オイルショックの後、強い不況のため赤字に転落した。
それから、現場経営が始まった。間接部門はかなりのものが直接部門に移った。
経理面も金利を節約するため、経理担当者から担当重役まで総動員で銀行を回り、金利の引き下げの交渉を行った。
固定預金を取り崩し、借入金と相殺し、実質借入量を減少させた。
この実行のために、何度も銀行に足を運んだ。
しかし、不況が続き、二期連続して赤字となった。
そして、三期連続赤字は避けられない見通しとなった時、もう目につくもの、考えられるものの手はほとんど打ち尽くした。

あとどうすれば良いのか?会議を開き、各人が考えに考え抜いた。
その結果、出てきた答えは働く時間を長くするしかない。
これだった。
労働組合も、自主的な早朝出勤を始めた。
工場の現場、事務系・営業系も、始業時刻を30分早めることを申し合わせた。

ところが、ほとんどの人は1時間以上出勤を早めた。この努力により、第四期目の決算は黒字に変わった。
早朝出勤は今でも定着し朝の早い会社となっている。
第一次オイルショックを全社ぐるみの利益時間で支えたのである。
しかも、自主的に、と言うことであったから早出出勤手当はつかない「サービス」の出勤である。

不況になると、全社一丸となってこの危機を乗り切ろうとか、一丸となって目標を達成しようと言う幹部の挨拶を聞くことが多い。
正月も年頭の挨拶や、創業記念日には必ず出てくる決まり文句だ。
使う方としては、軽い気持ちで言っている人もいよう。
しかし、全社一丸とならなければ本当に会社は危ないと言う場合もある。
そういう時、一丸と同じ出たかどうかの「物的証拠」は、実質労働時間に各人がどれだけ余分にサービスの利益時間を付け加えたか、どうかにある。
新たに付加された時間こそが、全社一丸となった度合いを示す電流計なのである。

全社員が、今までより1日につき「1時間30分」余分に頑張って1年間仕事をしたならば、その会社の利益時間は、ほぼ2割上昇する。売り上げも20 %増となるだろう。
これこそが一丸となった証明に他ならない。
口では全社一丸だ、決戦だ、総力戦だといっても、働く時間が従来通りでは、結果は今まで通りに終わるのは目に見えている。

何度も言うが、我々ビジネスマンが「今まで通りに出勤し、今まで通りの考えで仕事に取り組み、今まで通りに帰っていたら」今までより結果は悪くなる。
しかし、会社の中にはこれを知っていながら言葉だけの一丸屋、業歴の古い会社で古参社員層に多いと言う一般性がある。

本当に一致して力を出さなければならない時、社長なりそのリーダーは率先して利益時間を多くし、全員に利益時間を増加するように説得する必要がある。こういう場合の利益時間は、サービス残業を意味するためがんばっても給料が増えない。
頼む方としては、1番触れたくないことである。

だが、ここに触れずに避けていては、目標通りに何かを解決することができない。
もし会社が危機に陥った時に、リーダーとその腹心にあたるものが利益時間を増加させなかったなら、まず「ニセ幹部」「嘘つき幹部」と見てよかろう。

出典
竹田 陽一氏『「利益時間」戦略』
産業能率大学出版部刊

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