差別化とは負けるところを決めること

大量生産の槍よりも一本の強く鋭い槍を持て

「商品」「地域」「業界/客層」が差別すべき対象

戦略の「略」の字を広辞苑で引いてみると「はぶくこと、簡単にすること」と、表現されています。

戦略は、勝つための戦い方を決めることと同時に、はぶくことが大切なのです。
世の中では、差別化をしなければ中小企業は生き残れないと言われますが、それは誰もが理解していることです。

しかし、自社のどこを差別化すればいいのかわからないというのが現状です。

コンサルタントが大企業の差別化事例を持ち出して、中小企業も同じような差別化をしないとだめですよ的なアドバイスをしますが、現実から言えば、どの部分の何を差別化すれば良いのかわからないからセミナーや勉強会に東奔西走しているのです。

しかし、どこに行っても、この「どこを差別化すべきなのか」という答えはなかなか見つかりません。

そもそも経営をしていて、一番お金がかかるところが「お客様を新しく作る」ことと、「作ったお客様を維持すること」なのです。

特に前者のお客様を新しく作ることに、とてつもない費用がかかるようになってきています。経営者としてはここのところを具体的にどうやって取り組むかということが、もっとも重要になってくるわけです。

たとえば通信販売の世界では以前は、お客様に1万円のお買い物をしてもらうためのコストというのは3000円くらいで済んでいました。

しかし、これが最近では効率の良い会社でも5000円くらい必要で、通常であれば1万円を売るために1万円以上の投資が必要になってきています。

お客様に何回買ってもらえば採算が合うのか

初回採算性(%)=(粗利益÷広告などにかかったコスト)×100

これが新規参入で、知名度がなかったり、新しくお客様を作っていかなければいけないという会社では、1万円を売るための費用は3万円、4万円と増大していってしまうのです。

ですから、最初からお客様を作るところと作ったお客様を維持するところで差別化しておかなければいけないのです。この差別化における経営の対象となるのが「商品」「地域」「業界/客層」なのです。

ここが会社の差別化をすべき対象の第一段階です。

商品を差別化するのか、販売している地域で差別化を行うのか、商品を販売している顧客の業界や客層で差別化をするのかということです。

これらを決めるときに、どこで差別化するかを決めるということは、そこを尖らせて際立たせるためにあえてそれ以外のところから手を引くということが大切になります。

効率のための平準化よりも差別化

日本の製造業では、効率良く安定的に製造するために工程の平準化という表現をする場合がよくあります。これはモノづくりの現場においては大変に有効な考え方なのですが、どこかを差別化しようとするときは、この平準化という考え方では差別化は永遠にできません。

差別化は、平準化するのではなく自社のどこかを尖らせて槍のように鋭く磨いて、市場に楔を打ち込むということです。

自社の差別化が出来ていないとすれば、差別化の槍をしっかりと磨いて尖った形にしていないと思ってください。

大企業はそうやって研ぎ澄まされた鋭い槍を何本も持って戦っている場合がありますが、経営資源の限られる中小企業で先を尖らせた鋭い槍を何本も持つことは不可能です。

「商品」「地域」「業界/客層」の一番強い分野で自社の戦う槍を決めて、その槍の先を徹底的に磨いて、市場に楔を打ち込んでいく戦略を立てることが重要です。

ポイントは役に立たない槍をたくさん持っていることよりも、たった1本でいいので、誰にも負けない槍を会社として持つことです。

極端な言い方をすれば、その強い研ぎ澄まされた槍以外の大量生産の弱々しい槍をたくさん持っていると、逆に動きが鈍くなり、せっかく誰にも負けない槍を持っていたとしても、その他の槍が邪魔になって充分な戦いができない場合が出てきます。

だとすれば、いっそのこと、勝てない武器は捨てて身軽になって、1本だけのだれにも負けない研ぎ澄まされた槍だけで伝説を作るほうが間違いなく生存率は上がります。

会社の経営にとっては、どこにでもある槍を捨てる勇気も大切です。
当然、捨てるときには弱々しい槍といえども大丈夫だろうかという不安はつきものです。

しかし、ここで余分な役に立たない武器を捨てる判断が重要です。
それができないと役に立たない重い武器を引きずりながら敵と戦わなければいけませんので、本来の自分の強さが発揮できないのです。

「どこで」差別化するかを考える

差別化とはまずは「商品」「地域」「業界/客層」のどこで差別化をするのかを決めることから考えます。

これがはっきりすれば、次に「売り方の差別化」と「顧客維持の差別化」ということを考えればよいのです。

この「売り方の差別化」と「顧客維持の差別化」というのは、経営における知識になりますから、ここの部分はマニュアル化ができるわけです。

つまり、こここそが平準化できるところなのです。業績の良い会社はどの部分で尖った槍を作るのかを「商品」「地域」「業界/客層」で決めて、売り方、維持の仕方をマニュアル化して取り組みます。

営業エリアを絞って充実のサービスを目指す

私の勉強会に参加をされていたあるユニークな経営者のお話です。
ある日、岐阜市にある私の自宅の水道の蛇口が壊れてしまったので、地元の業者さんにいろいろ聞いていたのですが、内容がよくわからないので仕方なく、先ほどのユニークな社長に電話をして修理を依頼しました。

しかしその社長は「すみません。ランチェスターの経営戦略を勉強させてもらっているので、お伺いすることはできません。完全に私のテリトリー外ですから」とあっさり断られてしまったのです。

確かに彼のいうことは正論で、普段から私が「取り組むところと取り組まないところをはっきりと決めましょう」と言っているので、社長はそれに忠実に従って自社の営業範囲でやらないところ、つまり負けても良いところをきっちりと区別していたわけです。

同じ岐阜県でも東濃地方と美濃地方では、車で1時間以上離れていて、この社長にとってみれば切り捨てている営業エリアだったのです。

こういった考え方が会社を強くするのです。

一見すると、せっかくの売上げのチャンスを、みすみす切り捨てているみたいで損をしているように思えますが、彼は地域での差別化を徹底していたのです。

そもそも差別化ということは、他との違いを明確にして独自性を積極的に示すことですから、「商品」「地域」「業界/客層」のどこで差別化するかということは、どの分野で独自性を出すかということになるのです。

ちなみにこの社長は地元の有名人で、頭はスキンヘッドですが趣味はオペラを歌うことで、休日には地元でオペラコンサートを開催したり、はたまたオリジナリティを出すために、自費出版の青春小説を作ってお客様に配ったりと、とにかく「地域」というところでの差別化を徹底的にしていらっしゃいます。

お客様に呼ばれたら地域の差別化を生かして、30分以内に駆けつけています。

仕事があっても儲からない大手ハウスメーカーの下請け仕事から脱却して、地元のお客様をしっかりと開拓して、業績を伸ばすことに成功しています。

これは「地域を差別化する」と決めたから、するべき取り組みはいろいろとはっきりしてきたわかりやすい例です。

もし、あなたの周りで差別化を口に出す人がいたら、「具体的にはどこで差別化をしたら良いでしょうか?」と少し意地悪な質問をしてみて下さい。

「商品」「地域」「業界/客層」に「売り方の差別化」と、「顧客維持の差別化」が出てくれば話を聞く価値があるでしょう。

もし質問をした人が、ちゃんと答えられないようであれば、その人自身がどこを差別化したら良いのかがわかっていない可能性が大きいので、気を付けてください。

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