数字の先に「お客様」がいることがわからない

多くの社長さんは、税理士は「数字」に強いと思っていらっしゃるでしょう。
たしかにそうです。

間違いなく記帳して、難しい税金の計算式を使いこなして税額をはじき出します。そして「数字」というものには一見、説得力があります。

だから、「売上」「経費」「利益」の金額をもとに、「利益が出ないのは、経費がかかりすぎているからです。もっと経費を削減すべきです」などとアドバイスされると、「そんなものかな」と考えてしまいます。

あるいは、「経費削減も限界にきているならば、売上を上げるしかないですね。社員の営業力を高めるしかありません」などといわれて、社員を集めて「もっと気合を入れて売ってこい!」などと発破をかけたことがある社長さんもいらっしゃるのではないでしょうか?

しかし、こんなことを繰り返していても、経営が上向くことはまずありません。なぜなら、この議論に決定的に欠けている要素があるからです。

その要素とは、「お客様」です。

当たり前のことですが、あらゆる商売はお客様あってのものです。
ターゲットとなるお客様をしっかりと見極めて、その特性にあった商品を、適切な方法で販売した結果として、利益を得ることができるのです。

だから「何を」「誰に」「どこに」「どのように」売るかが大事なのです。

ところがほとんどの税理士はそのようなことを考えていません。ただただ、決算書の数字をもとに財務状況を分析することしかできないのです。

数字の先に「お客様」がいることがわかっていないのです。

それはそうです。彼らはあくまで「税金のプロ」なのです。

法令にのっとってきちんと納税するのをサポートするのが仕事であって、御社のお客様を喜ばせるために存在しているのではないのです。

一度、「先生、ウチが儲けるためには『何を』『誰に』『どこで』『どうやって』売ったらいいですか?」と経営指導を売り物にする税理士に訪ねてみてください。

まず、納得できるような答えは返ってこないでしょう。
だとしたら、その先生の経営指導は”お客様不在“のマユツバ物と考えてまず間違いありません。

税理士がつくるのは、あくまで「納税のための決算書」

私は講演などでときどき税理士の先生に「決算書は何のためにつくっていらっしゃるのですか?」と質問させていただくことがあります。

困ってしまうのは、「経営分析のためです」と返答されたときです。
だって、そんなのウソだからです。
税理士は間違いなく、税金を払うために決算書をつくっています。

「この会社はこれだけ稼いで、これだけの資産をもっているから、これだけの納税を行います」ということを税務当局に証明するために、決算書をつくっているのです。

いえ、それでいいんですよ。
なぜならば、会社はきちんと納税しなければなりませんし、税理士は適正な納税をサポートするために国から認められている資格なのですから・・・。

問題なのは、納税のためにつくった決算書をそのまま経営分析に使おうとすることにあります。
というのは、決算書の勘定項目は、税を課す側にとってわかりやすいように設定されているからです。

たとえば、経営分析をするうえで「人件費」は非常に重要な項目ですね?
しかし、損益計算書では、一般社員の人件費と役員賞与は別の勘定項目になっています。

経営分析を正確に行うためには、これらバラバラに計上されている人件費を拾い集めて合算しなければなりません。

シャレにならない話があります。
ある企業で人件費削減が俎上にのぼったことがあります。

顧問税理士が、「利益を確保するために人件費を削るべきだ」と指摘したのです。
ところが、その人件費のなかに役員賞与が含まれていなかったのです。

とんでもないことです。経営悪化の責任を誰よりもとらなければならない役員の人件費を考慮にいれないで、まともな経営分析などできるはずがないのです。

決算書の数字を加工もせず、経営分析に使おうとすると、こんな初歩的な間違いすら犯しかねないのです。

「営業経費」だってそうです。
この経費には、営業マンの人件費、交通費、営業車の購入・維持費、通信費など含めなければなりません。
しかし、損益計算書にはバラバラに計上されています。

もう、おわかりですよね?

決算書の数字を、そのまま経営分析に使うことはできないのです。
決算書は課税サイドの利便性を考慮してつくられているのであって、経営分析のためにつくられているわけではないことを、くれぐれも忘れないでください。

多くの税理士はこのことを理解していないから、間違ったアドバイスをしてしまうのです。

営業「投資」を削って会社を窮地に追いやる

さきほど私は、「営業経費」という言葉を使いました。

しかし、実は、この言葉ほど罪深い言葉はそうそうありません。
本当は、この言葉を使いたくないくらいです。

「は?急に何を言い出すんだ?」皆さん、驚かれたかもしれません。

「だって、PLの勘定項目じゃないか?それが罪深いってどういうことだ?」

特に、専門家でいらっしゃる税理士さんの中には、「わけのわからないことを言うな!」とお怒りになる方もいらっしゃるかもしれません。

しかし、経営者にとっては、「営業経費」という考え方は“百害あって一利なし”なのです。

繰り返しますが、決算書とは課税する側に都合のいいようにつくられているものです。課税対象となる利益金額を計算するうえでは、たしかに「営業経費」という概念でかまわないでしょう。

私も学校で、(売上)-(経費)=(利益)と学びました。
しかし、経営するうえでは、「経費」ではなく「投資」と考えなければなりません。ここを間違えることで、どれだけの会社が経営を危うくしてきたことでしょう。

いま、約7割の企業が赤字にあえいでいます。

なんとか利益を出さなければならない。しかし、どんなに頑張っても、売上が上がらない・・・。となると、「経費削減」しかない。と、こうなるわけです。

ところで、全国の黒字の中小企業の平均的な利益構造をみると、粗利益100万円に対して、経常利益は、よくても7万円(粗利益に対する経常利益7%)。

そこにさらに税金がかかります。これが実情です。厳しいですね・・・。

ここで問題になるのは、経費の内訳です。一般経費23万円に対して、営業経費70万円です。経費の大半は営業関連支出なわけです。

つまり、経常利益を増やすには営業経費を削るのが最も手っ取り早いわけです。だから、経営アドバイザーを自称する税理士は、簡単にこういってのけます。

「社長、営業経費を削りましょう」
これは、“悪魔のささやき”です。

何も考えずに営業利益を削ることによって、さらに商品が売れなくなり、気が付いたらニッチもサッチもいかなくなってしまっていた・・・。

こういう会社をたくさん見てきました。

いま、中小企業の倒産理由の7割が「販売不振」です。つまり、売れないからつぶれるのです。なのに、売ることに投資しないで、どうやって生き残るつもりなのですか?

特に、窮地に陥っているのは“下請けモデル”の中小企業です。
もう親会社が発注してくれないから苦しんでいるわけです。
問題は、どこに営業投資をすべきかということが決められないことですよね?

ところが、「営業」を「経費」ととらえるから、「経費なんだから削ろう」という誤った判断をしてしまいます。

だから、私はこの言葉は罪深いと思うのです。

営業は「投資」です。辞書を引いてみましょう。

「投資」とは、「利益を得る目的で、事業・不動産・証券などに資金を投下すること。転じて、その将来を見込んで金銭や力をつぎ込むこと」(大辞林)とあります。

一方、「経費」は「一定している平常の費用。また、物事を行うのに必要な費用」とあります。ここにはリターンの発想がありません。

しかし、われわれは、利益というリターンを得るためにこそ営業しているのです。だから営業は「投資」なのです。

では、投資をする際に考えなければならないことは?
「戦略」ですね。

たとえば、

  • 来期は既存の取引先の業界の状況がよくないので、新規の見込み客の開拓に重点的に投資しよう
  • 新規開拓が難しい状況なので、既存顧客をしっかりフォローすることに、重点的に投資しよう
  • 地方都市だけでは限界があるので、思い切って東京での営業展開に投資しよう

といった投資戦略を考えなければならないのです。

もちろん、投資にムダがあってはいけません。しかし、ムダを省くことよりも先に、目標や戦略がなければならないのです。

「営業投資」という考え方をもっていれば、利益を出すために、単純に営業経費を削ろうなどという発想は絶対に出てきません。

しかし、このことを理解していない税理士は“悪魔のささやき”をしてしまうのです。くれぐれもご注意ください。

橋本美穂
河辺よしろう
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