小さな会社は流通経路を確保できないことがあります。卸会社との取引は競争相手も多く、古くから付き合いのある同業者が出入りしているため、新規で営業するのが難しいのが現状です。こうした問題を解決するためには、「弱者の戦略」から2つの方法が考えられます。
1. 卸会社を飛ばして販売店や小売店で販売
卸会社を飛ばして販売店や小売店に販売することで、ランチェスター第2法則に当たる「確率的な競争」が発生する接点を、1つ少なくすることができます。
ところが、バブル経済がはじけたあと、卸会社を飛ばして販売店や小売店に直接販売するメーカーが増えたことから、多くの業界はすでに販売店や小売店の段階でも競争が激しくなっています。
その中でも、建築材料をはじめ、食材などのメーカーでは、こうした傾向がいっそう進んでいます。ですから、販売店や小売店への販売を決めても営業する地域を狭くすることで、販売店や小売店に営業力を集中していきます。
もちろん多くの商品を扱わずに、絞り込みをかけることも忘れてはいけません。
また商品に「ズバ抜けた強み」がない限り苦戦するのは避けられませんから、商品対策も怠らないことです。
それでも見込みがないときは、エンドユーザーに直販します。
2. エンドユーザーへの直販
エンドユーザーに直接販売すると、次のような特徴が生じます。
- 流通の2段階で発生していた「確率的な競争」がなくなる
- 商品の特徴や良さが、お客に直接説明できるので「差別化対策」が有効に機能する
- 商品を作る会社に「価格決定権」が生じるので、粗利益率が高く維持できる
- 最終利用者の情報が直接集められるので、次の商品開発や営業方法の改善に役立つ
以上の4つが、エンドユーザーに直接販売することで生じるプラス面になります。
この方法は、衰退期に入っている伝統商品や趣味商品を作っている会社などでは考えてみるべきです。
しかし、エンドユーザーに直販すると、次のような欠点が生じることも頭に入れておかなければなりません。
- 1回あたりの取引が小口になる
- 必要な売上を上げるには、多くのお客を作らなければならなくなるため、営業の仕事がとても難しくなる
- 出荷や代金回収の仕事が多くなる
このように、細かい仕事がとても多くなるので、どうしても経費が割高になってしまいます。この問題を解消するには、粗利益率の高い商品を作ることと、効率の良い仕事のための仕組み作りの、2つが同時に必要になります。
経営というものは、利益率が良く、しかも効率が良いという「二律背反の関係」になっています。ですから、小さな会社が成功するには、欠点と思われる問題点を解決する創造性と忍耐力が欠かせないのです。
販売活動の手順は数字から分かる
営業対策とは、何よりお客を作り出すことです。そのお客を作るには、お客を作り出す作業手順を改めてはっきりさせておく必要があります。
まずは、あなたがイメージしやすいようにも見える訪問型の営業で説明しましょう。
販売活動の作業手順
1. 売ろうとしている商品や有料のサービスに対して関心が高い見込み客を、どういう方法で見つけ出すかという作業。
2. 見込み客の警戒心を上手に取り除き、人間関係を良くする作業
人類の歴史は殺し合いや略奪の歴史でもありました。こうした長い歴史の刷り込みにより、人は知らない人を見ると、無意識のうちに警戒心を持つようになっています。営業マンが商品の説明を聞いてもらうには、見込み客の警戒心を取り除くとともに、人間関係を良くする「意図的な行動」がかかせません。
3. 商品や有料のサービスの効用や良さを、見込み客の立場でわかりやすく説明する作業。
商品を買うかどうかの決定権は、お客が100%持っていて、売る側には1%もありません。「売る側から見た商品の良さと、買う側から見た商品の良さは、ほとんど一致しない」と言われるように、商品を買うお客の立場に立った説明が大事になります。
4. 商品説明をしたあと、見込み客に不安が残ったり反論が出たときは、別の角度から追加の説明をして実際に契約をまとめる作業
これは、お客に安心して商品を買ってもらうクロージング作業になります。クロージングのやり方によって、お客があなたの会社の商品を買ってくれるかが決まってきます。
また、ほかの見込み客の紹介にもつながりますから、大事なことはお分かりのはずです。
この手順は、ルートセールスなど「継続取引型」の場合と、住宅販売のような1回限りの「スポット型セールス」とでは、かなり違っています。しかし、飲食業などの店舗型はもちろん、ダイレクトメールやインターネットで商品を売る場合、文章の書き方にも当てはまる営業の基本手順になります。
作業手順がわかったら、次はこの手順のウェイト付けをする必要があります。
作業手順のウェイト付け
- 売ろうとしている商品や有料のサービスに対して関心が高い見込み客を、どういう方法で見つけ出すかという作業・・・53%
- 見込み客の警戒心を上手に取り除き、人間関係を良くする作業・・・27%
- 商品や有料のサービスの効用や良さを、お客の立場で分かりやすく説明する作業・・・13%
- 商品説明をしたあと、見込み客に不安が残ったり反論が出たときは、別の角度から追加の説明をして実際に契約をまとめる作業・・・7%
あなたは、商品を売る側から見ると「契約をまとめる」ことが目的になるのだから、最後のウェイトが最も高くなるはずだと思われたに違いありません。
しかし、契約をしようにも、見込み客が見つからなければ契約は成立しません。
商品の説明をしようとしても、見込み客が強い警戒心を持ち面会を断られたら契約は取れません。
見込み客の意見と、見込み客の警戒心を取り除く2つを合わせると「80%」になるのです。
見込み客を見つける方法はさまざま
お客を作っていく手順の中で、一番ウェイトが高いのが最初の手順の「見込み客を見つけ出すこと」になります。
見込み客を見つけ出す方法は様々です。あなたの会社に合った戦略を立て、戦術に落とし込む必要があります。
見込み客を見つけ出す方法
- 飛び込み営業
- 店舗の集客力
- 電話
- 新聞折り込みチラシ
- チラシのポスティング
- ダイレクトメール
- インターネット
- 新聞や雑誌の広告
- ラジオやテレビの広告
- 立てカンバン
- 業界名簿、会員名簿、電話帳
- 紹介
- パーティーなどの会合
- 本の出版
- セミナー活動
この15項目の中で、ラジオ広告やテレビ広告は「強者の戦略」になりますから、小さな会社が使う戦略ではありません。
見込み客を見つけるときは、1つの方法だけを使っても効果はありませんから、最低でも「3つ」を組み合わせて実行することが必要になります。
あなたがもっと早く利益を上げたいのであれば、5つくらいは実行してみるべきです。
しかし、なりふり構わずやみくもにやればいいというものではありません。
使い方の知識や技術のレベルが、同業者100人中10番以内に入っていないと「本当の効果」は出ません。
経営相談を受けると、「あれもこれもやってみたが、どれもうまくいかなかった」という社長がいますが、よく聞いてみるとそのレベルが低いことが分かりました。
飛び込み営業ならば、営業の本を読んで研究するとか、チラシやダイレクトメールなら他社の研究をするとか、1つ1つについてあなたの実力をアップさせなければなりません。
もしあなたが、これから起業しようと考えているのであれば、53%を占める「見込み客の発見方法」をまったく知らないのなら、起業は思いとどまるべきです。
勝負できる商品があるのであれば、まず起業しようとしている業界に再就職して経験を積んでからにするか、成功するまで3~5年はかかる覚悟で決めてください。
さまざまにある見込み客を見つけ出す方法の中で、あなたはどれとどれについて熟知・経験しているでしょうか?それら1つ1つについての実力は、同業者100人中、何番目くらいに入っているでしょうか?
〈参考〉儲けのしくみ、教えます!「ランチェスター経営」がわかる本
著者:中小企業コンサルタント 竹田陽一 フォレスト出版