経営の源を見失うな!
日本には経営コンサルタントは、それに近い「経営関連のサービス業」をしている人が何万人もいます。その中で一番人数が多いのが、公認会計士や税理士などの会計専門家です。彼らの多くは「経営で一番大事なものは会計である」と言うのです。
「会計こそが経営である」と言わんばかりに会計の重要性を強調する人までいますね。
会計はお金を扱います。95%以上の犯罪はお金が原因で起きているように、人はことのほかお金にとらわれているため、お金を扱う会計の仕事が最も大事なように思ってしまいがちです。
会計の仕事をしている従業員にとっては「その仕事が100すべて」になるので、会計が経営の中心のように思えてしまうのはやむを得ません。
ところが、会計の仕事自体は少なからぬ経費を消耗しますが、1円の粗利益も生み出すことはありませんから、いかにして会計作業のコストを下げるかが、大事な使命になるのです。
会計の専門家の中には、この現実を忘れている人がたくさんいます。逆に仕事を複雑にしてコスト高にする人さえいますから、用心しなければなりません。
特に年商5億円以下、とりわけ3億円以下の会社は徹底した軽装備の運営をして、経理などの内部部門の経費を少なくするべきなのです。
ただ、経費削減が問題なのではありません。あなたが経営戦略の研究をしないで、財務における戦略と戦術がゴチャゴチャになっていることに、大きな原因があるのです。
経理係と一緒になって仕事をしていると経営感覚が狂いますので、くれぐれも用心してください。
では、会計業務のコストダウンを図るには、どうすればいいでしょうか。
それには次の2つの手順が役に立ちます。
1.「弱者の財務戦略」をマスターすること
財務においても、一定の条件を満たした会社だけが使える「強者の財務戦略」と、その条件を満たしていない会社が使わなければならない「弱者の財務戦略」の2種類があります。
自己資本比率40%以下で従業員1人当たりの自己資本額が2000万円以下の会社は、「弱者の財務戦略」で運営しなければなりません。中でも自己資本比率が15%以下で従業員1人当たりの自己資本額が500万円以下の会社は番外弱者になりますから、より厳重にこの戦略ルールを守るべきです。
会計は大会社のやり方や商法の条文が中心になっていることから実質上「強者の財務戦略」になっています。従業員100人以下の会社の社長は、上場企業を主な顧客としている会計の専門家の発言には、特別に注意する必要があります。
2. 経営を構成する大事な要因をはっきりさせたあと、財務や会計が経営全体の中でどれくらいのウェイトを占めるかを明確にさせること。
経営の構成要素については第2部で詳しく述べますが、簡単に説明するとこうです。
会社という組織体は粗利益をエネルギー源にして生きています。その粗利益は、お客のお金と商品を交換した瞬間にしか生まれません。
お客が商品を買う場合も、どこの会社から買うかの決定権はお客が100%持っていて、売る側には1%もありません。
経営の本質は「経営の源になるお客をつくり出し、それを維持しながらお客の数を多くすること」になります。
つまり、「お客起点」の経営発想で経営を構成する要因を考えるべきだということです。
この原則に従って経営を構成する大事な要因を考えると、次のようになります。
経営の8大構成要因
- 商品対策
- 営業地域対策
- 業界と客層対策
- 全体的な営業対策(お客のつくり出し方)
- 顧客の維持対策
- 組織対策
- 資金と会計対策
- 仕事時間対策
仕事時間別のウェイト付け(財務対策の占める割合に注意)
- 営業地域、業界と客層、営業、顧客維持など広い意味での営業関連・・・53%
- 商品または有料のサービス・・・27%
- 組織対策・・・13%
- 財務対策・・・7%
会計のウェイトは1%
財務または資金が経営全体に占めるウェイトは7%しかありません。財務の中で繰り返し業務になる戦術の「会計作業」は、経営全体の1%のウェイトしかありません。
その証拠に、私は16年間、企業調査会社に勤めて1600件の倒産会社を取材しましたが、帳簿の付け方が遅いために倒産したという会社は1社もありませんでした。
財務の繰り返し業務が経営全体の1%もなければ、会計作業に使うパソコンのソフトを「弥生会計」にするか「ソリマチの会計王」にするかはごくわずかな違いしかないでしょう。ただ会計係が使い慣れているものにすればよいのです。
しかし、食事に困っていない人からすると、食べることが人生の目的ではないでしょう。
これと同じように、資金繰りにひどく困り、毎週回ってくる手形を落とすために苦しむと「資金繰り」が仕事の中心になります。
金銭欲が強い人ならば、経営で一番大事なものは「金」になります。こういう人たちは、財務のウェイトはもっと高いと思っているはずです。
経営で最も大事な仕事は会計であると考える会計の専門家や、会計崇拝の経理担当者も同じでしょう。ですから、財務のウェイトは7%しかなく、その戦術となる会計作業のウェイトは1%もないと説明すると当然納得がいきません。むしろ怒りを覚えるはずです。
その気持ち、よくわかります。
こう説明する私自身も3年間経理の仕事をしていたので、長い間そう思っていました。
しかし経営の原則を研究し、「ランチェスターの法則」と出会って戦略の研究をしていくうちに、ようやくこのような結論にたどりついたのです。
大企業の子会社だって赤字になる
まだ納得のいかない人もいるでしょうから、事例で考えてみましょう。
新日鉄をはじめとして、大手の総合商社は子会社を何社も持っています。これらの超有名企業は、中小企業と比べると資金調達力がケタ違いに強いので、子会社にはいつでも必要な資金が回せるはずです。
もし経営全体に占める資金のウェイトが特別に高いのであれば、有名企業の子会社の赤字率はほんのわずかで、ほとんどは黒字になっていなければなりません。
しかし、実際には中小企業よりも少し低い赤字率が出ています。有名企業の子会社でも中小企業と大差はないのです。
役所が中心になってつくる「第3セクター」にも同じことが言えます。
もし資金のウェイトがもっと高いのであれば、第3セクターには役所がドンドンお金を出すので黒字の会社が多いはずですが、実際はその逆です。経営は実業ですから、事実がそうなっていたらそれが正しいのです。
資金のウェイトを特別高く考えている人は、効率性の高い「経営システム」をつくる仕事、経営を進めるときに欠かせない「資金」、さらに経営を進めた結果から生じる「利益」の3つを混同しているという事実も存在しています。
たとえば、AさんとBさんがほぼ同時に独立し、販売係がお客のところを訪問して、商品を販売する訪問型の営業で経営を始めたとしましょう。2人は、それぞれ従業員を20人採用することにしたとします。
Aさんは20人のうち「16人」を販売担当にし、「4人」を経理などの内勤担当にしました。Bさんは販売係を「4人」だけにし、残りの「16人」を経理などの内勤担当にしました。さてこの2人、どちらのほうの業績がよくなると思いますか?
100人の人に聞けばおそらく全員が、16人を販売係に回したAさんのほうの業績がよくなると答えるはずです。
これは経営の源になるお客をつくり出す営業のほうが、会計よりもはるかにウェイトが高いことを表しているからです。
経営を進めるには、資金も欠かせません。
しかし、資金調達力があるかどうかということと、競争力のある商品を見つけだす能力というのも、まったく別なのです。
人はお金に対する執着心がとても強いので、資金力さえあればこれらの能力も高くなるだろうと、勝手に思い込んでしまっているのです。
会計を知らないから会社が潰れるのではない
イタリアの科学者ガリレオは望遠鏡をつくって木星を観察しているとき、木星も周りを4つの衛星がグルグル回っているのを発見しました。これにヒントを得て、太陽が地球の周りを回っているのではなく、地球が太陽の周りを回っていると発表しました。
ところが、この考えは異端とされ、宗教裁判にかけられて危うく「火あぶりの刑」に、されそうになりました。これは誰もが知っていることと思います。地球が太陽の周りを回っていることは、小学生でも知っていることです。
しかし、日の出時間とか日の入り時間のように、地球上から太陽を眺めていると、太陽のほうが地球の周りを回っているかのように思えるものです。
この錯覚は経営についても同じことが当てはまります。
ガリレオの考え方をとれば、どんな会社も産業も、お客がいるから成り立つのですから、経営について考えるときはお客を出発点にして、何を、どこの、誰に、どういう方法で売るかと順々に考えていくことが、正しいことになります。
しかし、会社の中にいると、お客がいないばかりか競争相手もいないので、財務や会計、それに賃金制度がとても大事なように思えてきます。まるで経営の中心になるかのように思えるのです。
会計の専門や会計崇拝主義者の中には、「会計を知らない社長は会社をつぶす」と反論する人もいるでしょう。
その声が私のほうまで聞こえてくるような気がしますよ。
それでも財務や会計、それに賃金制度が経営の中心にはなりません。
会計に詳しいかどうかは別問題。
ましてや「浪費グセ」がたたって高価な備品を次々と買うことや、自己資本比率の限度を超して設備投資をしてしまうことも、これまた別問題ですよ。
〈参考〉小さな会社★社長のルール ~ランチェスター経営 成功への実践法~
著者:中小企業コンサルタント 竹田陽一
フォレスト出版