経営には会社の利益を上げるために「どのようにするかという戦略」と、実際に「どう行うかという戦術」があります。この2つは、似ているようで大きく違います。
経営者の中には戦略と戦術を一緒に考えていたり、まったく違う意味でとらえている人が多くいます。そこで、戦略と戦術の違いをはっきり理解しておかなければなりません。
まずはあなたにとってかなりのウェイトを占める戦略について説明します。
戦略の語源は古代ギリシャの「ストラテジア」で、直訳すると「将軍の術」という意味になります。良き将軍(社長)になるには、自分が責任を持って担当すべき「役目」と、その「やり方」の2つをきちんと知っておかなければなりません。
ではまず、将軍の役目から説明しましょう。
~将軍の役目とは~
- どこと戦うか戦う相手を決める(=競争相手の特定)
- 敵の情報を集める(=競争相手の情報収集)
- 主力兵器と補助の兵器を決める(=主力商品と商品の幅の決定)
- 中心となる戦場と範囲を決める(=営業地域とその範囲の決定。小売・飲食業は立地の決定)
- 戦場までの進軍ルートを決める(=流通経路と販売先の客層の決定)
- 戦うときの陣組を決める(=全社的な営業方法と仕組み作り)
- 部隊を組織して役割を決める(=人の配分と組織作り)
- 軍資金の調達と配分を決める(=資金の調達と配分)
- 兵器と食料の補給方法を決める(=メーカーは生産能力、販売会社は仕入れルートの確保)
- 教育と訓練の方法を決める(=従業員の教育)
- 作戦計画書をまとめ、必要により部隊の責任者に渡して準備をさせる(=経営計画書の作成)
将軍の役目とはイコール社長の役目だということがわかります。
もしもあなたの役目がわからなくなったら、将軍の役目をイメージしながらメモしていくと間違いをせずにすむはずです。
戦略を理解するためには、その語源から考えるとスムーズに頭に入ってきます。
戦略の語源に当たる「ストラテジア」という言葉は、幕末に活躍した山口県の大村益次郎が、1864年に「将帥(しょうすい)の術」と翻訳したのが始まりでした。それを明治の初め、ヨーロッパに兵学の研究に行った日本の軍人が、ストラテジアを「戦略」と翻訳し直しました。
とはいえ、戦略は頭でじっくりと構想を練るのが中心の作業なので、それでは意味がよくつかめません。そこで「戦略とは見えざるもの」という解説を加えました。
ちなみに「略」は「知恵」を意味します。つまり戦略とは軍事用語で、その意味は「軍全体の効果的な勝ち方のルール」、または「その知恵」になるのです。
ここから、経営戦略とは「経営目標を効果的に達成する全社的なやり方」、または「その知恵」になります。これが語源に従った正しい解釈になるのです。
戦略の狙いは「効果性」を高めることにあります。効果性とは何かをしようとしているとき、しようとしているそのことが本当に有効であると言えるかを問うことなのです。
先ほど説明したように、戦略という言葉は明治になって翻訳されましたが、この言葉が経営で使われるようになったのは1965(昭和40)年頃で比較的新しい用語です。
そのため、戦略という言葉は人によってバラバラに使われているのが現状です。
また、戦略という意味を履き違えている人が意外に多いので、その例を挙げてみます。
- 目標を戦略と言っている場合
(目標を効果的に達成する全体的なやり方が戦略です。目標と戦略は明らかに違います。) - 会社が目指す方向性を戦略と言っている場合
(会社が将来進む方向は将来目標です。方向性は戦略にはなりません。) - 重要なことを戦略と言っている場合
(重要なことは戦術にも時間にもあります。重要なことそれ自体は戦略ではありません。) - 戦術を戦略と言っている場合
(プロセールスを経験したコンサルタントは、戦術のレベルを高めたものを戦略と言っていますが、戦術はあくまでも戦術です。)
このように、思い違いや勘違いをしている人が多いのですが、経営を専門にしているコンサルタントでさえも、戦略の意味をひどく間違って使っています。
とくに最後に挙げた、戦略と戦術はまったく違います。会社に就職してから40歳くらいまでに行う仕事はほとんどが戦術です。起業したあとにする仕事も戦術が中心になります。
ですから、社長のなかには戦術だけが経営の仕事だと信じ込んでいる人がとても多くいます。
戦術と戦略を混同すると社長の役割が分からなくなるばかりか、経営計画書も作れなくなります。こうしたことから、戦略について考えるときは必ず「将軍の術」という語源に戻って考えるようにしてください。
戦略の研究を3年くらい続けていると、戦略と戦術の区別がきちんとつくようになるでしょう。
★あなたはこれまで戦略の意味をどうとらえていたでしょうか?何でもかんでも戦略といっていなかったでしょうか?