経営の全体像をはっきりさせる

経営に対する過去の固定概念を捨てる

業績の98%が社長ひとりの戦略実力で決まるなか、社長が戦略実力を高めて良い経営をするには着眼大局の原則に従い、改めて経営の全体像を押さえ直しておく必要があります。

ところが経営の中心部分は形がないばかりか、「質は高くなれば高くなるに従って見えなくなる」という、とても皮肉な性質を持っているので、経営の全体像をはっきりさせる作業はとても難しくなります。
これが原因で、経営には怪しげな迷信がいっぱいはびこっていて、多くの社長を悩ませています。

もし、経営の全体像の押さえ方を間違うと、あとに続く作業が全部狂ってしまいますから、経営の全体像をはっきりさせるときは時間をかけ、いろんな角度から思索を繰り返さなければなりません。

このとき必要になるのが、これまでの経営に対する「こだわりやとらわれ」を捨てて「空(くう)の心」になることです。空の心になると事実が「ありのまま」に見えるようになります。

そのあと次の手順で考えを進めていくと、次第に経営の全体像がはっきりしてきます。

会社は粗利益で生きている

人は食事から摂るカロリーなどの栄養で生きています。もし必要なカロリーが不足すると、人の体は徐々にやせていき、やがて死んでしまいます。内乱が起きている国や独裁者が支配する国では、カロリー不足で毎年多くの人が死んでいます。

個人企業であるか法人企業であるかを問わず、会社と呼ばれる組織体は「粗利益」によって生きています。人件費はもちろんのこと、借入金の返済も粗利益の一部から
支払われているのです。
もし必要な粗利益が不足すると会社の体は赤字によって徐々にやせていき、やがて死んでしまいます。倒産です。

毎年毎年3万社~4万社もの会社が倒産したり廃業していますが、そのもとをただせば「粗利益の不足」が原因で起きているのです。

こうならないで業績の良い会社にするには必要な粗利益を、しかも一定してとり続ける必要があります。

この事実から決算書を見るときの第1のポイントは、「従業員1人当たりの粗利益」であることが解ります。さらに、1人当たりの粗利益を、業界の平均と比較してみることも欠かせません。

「粗利益」はお客と商品を交換しない限り生まれない

その粗利益は、お客のお金と商品を交換したときのみ生まれます。このとき「ピカッ」と光ったり「バンッ」と音がすると経営者もよく解るのですが、そういった合図が出るわけではないので、油断するとこの事実を忘れてしまいます。

会社の中では帳簿をつけたりパソコンに入力したり、あるいは会議を開いたりと実に様々な仕事がされていますが、お客からお金をもらったとき以外で粗利益が生まれる仕事はひとつもありません。であるのに、多くの人がこの事実に認識が足りないのです。

この事実をよく表しているのが販売の「販」の字です。販の字は、「貝」と反対の「反」の字の組み合わせになっています。「貝」はお金を表しますから、お客のお金と、その反対に当たる商品や有料のサービスとを交換することが、すべての経営の始まりになることが解ります。

しかも商品を買うかどうかの決定権は「お客が100%」持っていて、売る側には1%の決定権もありません。その証拠にどんな会社の社長もお客に向かって「商品を買うときは私の会社からだけ買いなさい。そうしないとタメになりませんよ」とは、決して言えないのです。

通販会社や小売業でお客づくりについて書かれた本を読むと「お客の囲い込み」という文章がよく出てきますが、お客は自分が気に入った会社が新しく出てくるとすぐその会社に注文してしまうので、どんな会社であってもお客を完全に囲い込むことなどできません。

もしだれかを囲い込むことができるとしたら、それは税務署だけでしょう。

これらの事実から経営で最も大事な仕事は、まずお客を作り出し、次に作ったお客を維持しながらお客の数を多くしていくことにある、という結論が自然に出てきます。
それと同時にこれは経営の目的にも通じます。

さらに経営について考えたり計画を立てるときは、お客を出発点にした「お客起点の発想」にすべきだということも解ります。

どんな業界にも多数の競争相手がいる

もうひとつ忘れてならないものがあります。それはどんな業界にも多数の競争相手がいて、お互いにお客を取り合っているという事実です。とにかくどこに行ってもまわり中敵だらけです。

しかも会社と会社の力関係はある程度限定された局面に投入される「戦術量の2乗」に比例するので、経営規模が小さな会社は特別な対策をとらなければひどく苦戦します。

だからと言って、競争相手の社長に向かって「私の経営のじゃまをするな。じゃまをするとタメにならないぞ」とも言えません。競争相手はその会社の都合で自由な営業をしてきます。

お客が商品を買うときは、当然競争相手と比較して判断しますから、経営の大事なところは競争相手に勝てるようにしなければ、お客から見捨てられることになるのです。

以上、ここまで説明してきたことを考えると、経営の概念が次第にはっきりしてきます。

ここまで説明してきた内容で経営の全体像がある程度つかめました。しかし経営の中心部には形がないので、間違いを防ぐために別の角度からもう一度考えを進めてみる必要があります。

前にも説明したように、会社という組織体は粗利益によって生きています。無から有が生じることがないように必要な粗利益を確保するには、お客が複数いる「市場」に対して「経営パワー」を投入しなければなりません。

その経営パワーは「商品力」と「営業力」の2つによって作り出されます。次にその経営パワーをムダなく有効に投入するには、

▼「どこ」の地域の
▼「だれ」に対して

投入するのか「目標」をはっきり決めておくことが欠かせません。
同じく実際にこうした経営活動をするには「人の配分と役割分担」が必要になり、これは経営の手段になります。

さらに実際に経営活動を進めるには「資金の配分」が必要になり、これも経営の手段になります。

最後にこれらの経営活動を1日当たり、1年当たり何時間実行するかになります。
ここまで説明してきたものをまとめると、経営の全体像がはっきりします。

今、経営の全体像を説明しました。しかし人はお金に対してひどくとらわれているので、会計の専門家を初めとして社長の中にも「経営の中心は会計にある」と考えている人が多くいます。
事実、経営計画書づくりの本の内容を調べると、9割以上が会計を中心に説明されています。

会計の仕事も必要ですが、会計の仕事からは1円の「粗利益」も生まれません。
さらに会計を中心にすると次は賃金制度や内部の活動がより重視されるようになります。

こうなると経営の源になるお客づくりがおろそかになったり、競争力のある商品づくりが「おろそか」になるので結局業績が悪くなります。

繰り返しになりますが、会社は粗利益で生きており、その粗利益はお客からしか出ないのですから、経営について考えるときは「お客を出発点にする習慣」をつけておくべきです。

〈参考〉プロ★社長
~98%は社長ひとりの実力で決まる ランチェスター経営・最強の社長学~
著者:中小企業コンサルタント 竹田陽一  中経出版

ランチェスター戦略 経営実践塾
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